言い寄る

私はどうかしてる、と我ながら思った。剛がそんな男であることは、ちゃんと知って付き合っているのに。どうしてこう傷つけられた思いをするのか、今さら。

私はふと、お好み焼き屋さんに行った日のことを思い出した。

隣に並んで、初めて真面目に話す時間だった。今の彼氏と婚約すると嘘をついて、この関係を終わらせたいと遠回しに伝えた日のこと。

やはり何年経っても、ああいう空気には慣れないもので、気まずいと思いながら鉄板だけを見つめてた。

ふと、誰か会社の人の子供の話をした時に、彼の子供の方が可愛いといって、彼が風呂場から子供をあやして出す動画を見せてくれた。

奥さんが撮った動画。
幸せの象徴。
何ともない日常の、一片。

子供の無邪気な笑顔。
楽しそうな"おとうさん"の姿と、
見えはしなくてもそこにいる奥さんを。

我慢するのがやっとのほど、
心に太い釘を刺されたように痛くて
涙があと1ミリでも溢れれば、止まることはなかっただろうと、今思い出しても苦しい思い出。

あの気持ちと重なるのだ。
結局、その夜私はまた彼と身体を重ねることになる。

どうかしている、女というのは。


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